【実践ガイド】ブロックチェーン国際送金で受け取った報酬の会計処理|記帳方法から為替差損益まで
フリーランスとして海外からの報酬を受け取る際、従来の銀行送金では手数料や為替レートによるロスが課題となることがあります。ブロックチェーンを使った国際送金は、これらの課題を解決する可能性を秘めた方法として注目されています。
しかし、ブロックチェーン国際送金で受け取るのは多くの場合、法定通貨ではなく暗号資産です。暗号資産で報酬を受け取った場合、「これをどう記帳すれば良いのだろう?」「日本円に換金した時に利益や損失が出たらどうなるの?」といった疑問や不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
本記事では、ブロックチェーン国際送金で受け取った海外報酬について、フリーランスの方が知っておくべき会計・経理処理の基本的な考え方から、具体的な記帳方法、為替差損益ならぬ「暗号資産売却損益」の考え方、そして注意点までを分かりやすく解説します。
ブロックチェーン国際送金で報酬を受け取った際の基本的な考え方
従来の銀行送金で海外から報酬を受け取る場合、通常は海外の法定通貨で送金され、日本の銀行で日本円に両替されて入金されます。この場合の収入金額は、日本円で入金された金額となります。
一方、ブロックチェーン国際送金で報酬を受け取る際は、依頼主から指定された暗号資産(ビットコイン、イーサリアム、ステーブルコインなど)で直接受け取ることになります。ここでまず理解しておくべきなのは、収入として認識するタイミングです。
フリーランスの会計処理では、「収入をいつの時点のものとして帳簿に記録するか」という点で、いくつかの考え方があります。一般的な考え方としては、以下の2つのタイミングが考えられます。
- 暗号資産を受け取った時点: サービス提供や納品が完了し、対価として暗号資産を受け取った時点を収入として認識する。この場合、収入金額は受け取った暗号資産の、その時点での日本円換算価値(時価)となります。
- 受け取った暗号資産を日本円に換金した時点: 暗号資産を受け取った時点では収入とはせず、その暗号資産を取引所などで日本円に換金した時点を収入として認識する。収入金額は、日本円に換金できた金額となります。
どちらの考え方で処理するかは、ご自身の会計方針(特に税務署に提出している開業届や所得税青色申告承認申請書の内容など)や実務的なやりやすさによって異なります。ただし、多くのフリーランスが採用している現金主義会計の場合、実際に現金(日本円)が入金されたタイミングで収入を認識することが一般的です。ブロックチェーン送金の場合、この「現金(日本円)」に相当するのが「暗号資産を日本円に換金したタイミング」と考えるのが、実務上分かりやすいでしょう。
本記事では、実務の分かりやすさを重視し、「受け取った暗号資産を日本円に換金した時点」で収入を認識するケースを基本に解説します。ただし、後述する「暗号資産売却損益」の考え方には、受け取り時の暗号資産の時価が重要になりますので、受け取った暗号資産の種類と数量、そして受け取った時点の時価を必ず記録しておくことが重要です。
受け取った暗号資産を「暗号資産のまま」保有した場合の記帳方法
海外からの報酬を暗号資産で受け取ったものの、すぐに日本円に換金せず、しばらく暗号資産のまま保有することにした場合を考えます。この場合、前述の考え方に基づけば、日本円への換金までは収入として認識しません。
しかし、帳簿には暗号資産を受け取った事実を記録しておく必要があります。これは、将来その暗号資産を売却(換金または他の暗号資産との交換など)した際に発生する損益を正しく計算するために不可欠です。
この場合、帳簿には以下のように記録することができます。
- 借方: 仮想通貨(または暗号資産)〇〇円
- 貸方: 売上高(または事業主借など)〇〇円
この際の〇〇円は、暗号資産を受け取った時点での日本円での時価です。
【記帳例】 1BTCを報酬として受け取り、その時の時価が300万円だった場合(仮想通貨勘定を使用)
| 日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | | :--------- | :------------- | :------ | :------ | | YYYY/MM/DD | 海外報酬(〇〇社) | 仮想通貨 3,000,000 | 売上高 3,000,000 |
この「売上高」として計上するのは、あくまで受け取った暗号資産の「簿価(取得原価)」を明確にするための一つの方法です。会計方針によっては、この時点では「収入」とは認識せず、資産としての暗号資産の増加のみを記録し、換金時に初めて売上高として計上するという考え方もあります。どちらの方法を採用するにしても、重要なのは「受け取った暗号資産の数量と、その時の日本円での時価(取得原価)」を正確に記録しておくことです。
受け取った暗号資産を「日本円に換金」した場合の記帳方法と損益の発生
受け取った暗号資産を取引所などで日本円に換金した場合、このタイミングで収入を認識し、帳簿に記録します。
【記帳例】 上記の例で受け取った1BTC(取得原価300万円)を、後日、日本円で350万円の時に換金した場合。
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換金(売却)による日本円の入金と仮想通貨の消滅を記録:
| 日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | | :--------- | :------------- | :------ | :------ | | YYYY/MM/DD | 暗号資産売却(〇〇取引所) | 普通預金 3,500,000 | 仮想通貨 3,000,000 | | | | | 仮想通貨売却益 500,000 |
この記帳では、受け取った時の仮想通貨の簿価(300万円)を貸方に計上して資産から減らし、実際に日本円で入金された金額(350万円)を借方に計上しています。借方と貸方の差額50万円が「仮想通貨売却益」となり、これが換金によって発生した利益(為替差損益に相当するもの)です。
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収入として計上(現金主義の場合など): 前述の通り、「換金した時点」で収入を認識する場合、この換金された金額が売上高となります。この場合、上記の仕訳とは別に、または合わせて以下のように記録することもできます。
| 日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | | :--------- | :------------- | :------ | :------ | | YYYY/MM/DD | 海外報酬入金(〇〇社) | 普通預金 3,500,000 | 売上高 3,500,000 |
どちらの記帳方法を採用するかは、前述の会計方針や、会計ソフトの仕様などによって異なります。重要なのは、以下の3点を正確に把握し、記録しておくことです。
- いつ、どの暗号資産を、どれだけ受け取ったか
- 受け取った時点での、その暗号資産の日本円での時価(取得原価)
- いつ、どの暗号資産を、いくらの日本円に換金したか
ステーブルコインで報酬を受け取った場合
ステーブルコイン(USDT, USDCなど)は、米ドルなどの法定通貨に価値がペッグ(連動)するように設計された暗号資産です。価格変動リスクが低いのが特徴です。
ステーブルコインで報酬を受け取った場合も基本的な考え方は同じですが、価格変動が少ないため、「暗号資産売却損益」が発生しにくいという特徴があります。
【記帳例】 1,000USDTを報酬として受け取り、受け取り時の1USDTの時価が100円だった場合(取得原価10万円)。すぐに日本円に換金し、1,000USDTが100,050円になった場合。
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受け取り時(簿価の記録):
| 日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | | :--------- | :------------- | :------- | :------- | | YYYY/MM/DD | 海外報酬(〇〇社) | 仮想通貨 100,000 | 売上高 100,000 |
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換金時:
| 日付 | 摘要 | 借方 | 貸方 | | :--------- | :------------- | :------- | :------- | | YYYY/MM/DD | 暗号資産売却(〇〇取引所) | 普通預金 100,050 | 仮想通貨 100,000 | | | | | 仮想通貨売却益 50 |
この例のように、ステーブルコインであってもわずかな価格変動による損益が発生する可能性があります。これを正確に記録することが求められます。
会計処理を進める上での注意点
ブロックチェーン国際送金で受け取った報酬の会計処理を行う上で、特に注意すべき点を挙げます。
- 取引履歴の正確な記録: いつ、何の暗号資産を、どれだけ受け取ったのか。そして、いつ、どの暗号資産を、いくらで日本円に換金したのか。これらの取引履歴は、損益計算や売上高の計上において最も重要です。利用した国際送金サービスや暗号資産取引所の取引履歴レポートを必ず保管しておきましょう。
- 暗号資産の取得原価の計算: 将来的に暗号資産を売却した際の損益を計算するためには、受け取った暗号資産の「取得原価」、つまり受け取った時点の日本円換算価値が重要になります。複数の種類の暗号資産を受け取ったり、複数回に分けて同じ種類の暗号資産を受け取ったりする場合、この取得原価の計算が複雑になることがあります(移動平均法や総平均法などの計算方法があります)。
- 税金との関連: 暗号資産の売却によって生じた利益(仮想通貨売却益)は、原則として「事業所得」または「雑所得」として所得税の課税対象となります(事業所得となるかは事業規模などによります)。会計処理は税金計算の基礎となりますので、正確な記録がそのまま確定申告に活かされます。
- 会計ソフトの活用: 最近では、暗号資産の取引履歴を取り込んで自動で計算や記帳をサポートしてくれる会計ソフトやサービスも増えています。これらのツールを活用することで、手作業によるミスを防ぎ、効率的に処理を進めることができます。
- 専門家への相談: ブロックチェーン国際送金や暗号資産に関する会計・税務は、まだ新しい分野であり、個々の状況によって判断が難しいケースもあります。もしご自身の会計処理に不安がある場合や、取引が複雑な場合は、税理士などの専門家に相談することをお勧めします。暗号資産税務に詳しい専門家を探すのが良いでしょう。
まとめ
ブロックチェーン技術を使った国際送金は、手数料や速度の面でフリーランスの国際取引をより効率的にする可能性を秘めています。暗号資産で報酬を受け取る際には、従来の法定通貨とは異なる会計・経理処理が必要となりますが、基本的な考え方を理解し、正確な記録を心がけることで、適切に対応することができます。
特に、暗号資産を受け取った時点での日本円換算価値(取得原価)と、日本円に換金した時点での金額を正確に記録し、両者の差額を損益として認識することが重要です。
最初は戸惑うかもしれませんが、利用したサービスの取引履歴を活用し、必要に応じて会計ソフトや専門家のサポートを得ながら、一つずつクリアしていきましょう。正確な経理処理は、安心して事業を継続し、確定申告をスムーズに行うための大切なステップです。
ブロックチェーン送金Labでは、ブロックチェーン国際送金に関する様々な情報を提供しています。会計処理だけでなく、サービスの選び方やセキュリティ対策などについても参考になる記事がありますので、ぜひそちらも合わせてご覧ください。